産婦人科部長 高木 博
ひとりで悩まず、まず相談を。
中高年の女性に多い病気のひとつに「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」があります。ただ、日本ではあまり知られていないため、ひとりで悩んでいる患者さまも少なくありません。そこで、当院産婦人科部長・高木博医師に、骨盤臓器脱の最新情報を聞きました。
骨盤臓器脱ってどんな病気?
女性の骨盤内に収まっている子宮や膀胱、直腸などの臓器が本来の位置から下がって、腟から脱出してくる病気です。下がってきた臓器によって「子宮脱」「膀胱瘤」「直腸瘤」と呼ばれ、これらを総称して「骨盤臓器脱」といいます。症状が進むと、外出をひかえる、温泉旅行に行けない、スポーツができないなど、生活の質(QOL)が著しく悪化します。
欧米では出産経験者の40%が発症
日本ではまだ正確な数字が出ていませんが、欧米では、出産経験者の発症率が40%を超えるとのデータが報告されています。このことからも、日本でも多くの女性がこの病気に悩まされていると推測されます。
骨盤臓器脱の原因は?
出産によって、骨盤内の臓器を支えている筋肉やじん帯(骨盤底筋群)が大きく伸びて損傷することに加え、加齢や閉経による女性ホルモンの減少などで、さらに強度が低下することで、骨盤臓器脱の症状が出てきます。
また、肥満や慢性の咳、便秘で力むことなども骨盤臓器脱の原因になります。
どんな症状が出るの?
最初は入浴中にピンポン玉のようなものが腟から出てきたといって気づき、そのうち、股間に何か挟まっているような違和感や圧迫感を訴える方が多いです。また、膀胱瘤では頻尿や排尿困難、残尿感を、直腸瘤では排便困難や便秘の症状を伴うことがあります。
骨盤臓器脱のこれまでの治療方法
症状が軽い場合は腟や肛門の筋肉を鍛える「骨盤底筋体操」を行います。
多くの施設で腟の中にペッサリーというリングを入れる「ペッサリー療法」を行っていますが、留置期間が長いと腟壁にビランを作り感染や出血の原因となります。このため当院では自己管理可能な方には、ご自身で脱着ができるよう指導を積極的に行い合併症の軽減に努めています。脱出が中程度あるいは重症の場合には「手術療法」が基本となります。従来行われてきた多くの手術は、経腟的に子宮を摘出し腟壁を縫い縮めて補強するというもの。補強の際はもともと傷んでいる組織を使うため再発率(30%)が高いことや腟の短縮や狭くなったりすることが課題でした。
最新の手術法「メッシュ手術」とは?
メッシュが傷んだ組織の代わり
となって、腟壁と臓器の間を
補強します。
2000年にフランスで開発された新たな術式で、メッシュと呼ばれる編み目状のシートを腟と膀胱の間、または腟と直腸の間に入れ、臓器を本来の位置に戻して再び下がってこないように組織を補強します。
人工素材で編み上げた高強度の
メッシュ。
2000年にフランスで開発された新たな術式で、メッシュと呼ばれる編み目状のシートを腟と膀胱の間、または腟と直腸の間に入れ、臓器を本来の位置に戻して再び下がってこないように組織を補強します。
患者さまの症状に合わせ、最良の治療法をご提案します。
当院では、メッシュ手術が多くの女性のニーズを満たすという点を考慮して、2007年より従来法だけでなくメッシュ手術も積極的に導入し、良好な成績をおさめています。もちろん軽症の場合は、骨盤底筋体操やペッサリーの自己着脱の指導、下がった臓器を半球形のクッションで受け止めホルダーとサポーターで固定するフェミクッションなどで対応しており、治療法には様々な選択肢があります。当院では、症状の程度・年令・健康状態・ご本人の希望にあわせて、最良の治療方針をご提案しています。骨盤臓器脱でお困りの方はひとりで悩まず、まずはご相談ください。