内科:山北 宜由
原発性アルドステロン症について
高血圧症の患者さんは非常に多く、全国で3000-4000万人の方が高血圧症です。高血圧は多くは遺伝的要因が関与して発症することが多く、その他、肥満や飲酒、運動不足などの生活習慣も関係しています。しかし、最近、血圧を高くするホルモンであるアルドステロンが腎臓の傍の副腎から過剰に分泌されることによって高血圧症になっている人が、それまで考えられていたより、遥かに多く存在しているということが分かってきました。このような高血圧を「原発性アルドステロン症」とよびます。原発性アルドステロン症は1950年代にアメリカで発見された疾患で、1990年頃までは全高血圧患者の1%以下しか存在していないだろうと考えられていました。しかし、血液の中のレニンというホルモンの活性とアルドステロンの濃度の比がある一定の値以上の患者さんから原発性アルドステロン症を探し出すという方法が行われるようになってから、思いのほか多数の患者さんが存在していることが分かってきました。今では全高血圧患者の20%が原発性アルドステロン症であったという報告もありますが、日本での臨床調査結果では5-10%程度の高血圧患者さんが原発性アルドステロン症だといわれています。すなわち10-20人の高血圧患者さんのうち1人は原発性アルドステロン症であるというわけです。かつては、原発性アルドステロン症は、(1)難治性高血圧で、(2)若年者に多く、(3)血清カリウム値が低く、(3)高血圧の家族歴は少ないと言われていましたし、副腎に腫瘍があってその腫瘍からアルドステロンが多く分泌されることが多いので、(4)CT検査を受ければ副腎に腫瘍がみつかることが多い、とされていました。しかし、最近の調査では、高血圧の薬を沢山使えば何とか血圧は正常になっている患者さんも多く、ましてこれまで原発性アルドステロン症を見つけるきっかけになっていた、血清カリウム値が低くない患者さんが半数以上はいるということ、また、副腎腫瘍の直径が6mm以下しかないCTでも写らない小さな腫瘍例がやはり半数ほどはいること、若年者や高血圧の家族歴のない患者さんはむしろ少ないことなどが判明して、多くの原発性アルドステロン症の患者さんが見落とされている可能性があるということになってきました。
原発性アルドステロン症の患者さんでも、最近の強力な高血圧の薬を組み合わせて服用すれば、血圧そのものは何とか低下させることができることも多いのですが、同じ程度の血圧にまで降圧した通常の(本態性)高血圧症の患者さんと原発性アルドステロン症の患者さんを比較すると、脳血管障害や心房細動などの不整脈、心臓肥大の合併状況などは、遥かに原発性アルドステロン症の患者さんの方が多いという事実が分かっています。これは、過剰のアルドステロンが単に血圧を上げるだけでなく、血管や心臓、腎臓に悪い影響を与えるためであると考えられています。
原発性アルドステロン症の原因には、(1)副腎腫瘍(殆どは良性です)、(2)両側副腎過形成(細胞が増え大きくなっている)、(3)遺伝性のものに分けることができますが、80-90%程度の患者さんは副腎腫瘍が原因であろうと考えられます。ただ、両側の副腎に腫瘍がある場合があるので注意が必要です。普通、腫瘍なら手術で腫瘍をとれば、原則として病気は治ります。
しかし、CTで写らないほど小さな腫瘍をどのようにして見つけるのかが難しい問題となります。一般に副腎にはいろいろなタイプの腫瘍がしばしば見られます。従って、原発性アルドステロン症を疑った患者さんのCT検査で副腎に腫瘍が見つかってもそれが病気の原因になっているとは限らないわけです。ある報告によるとCT検査の結果だけを頼りに手術をすると20%ぐらいで、手術側を間違えるとも言われています。
細いカテーテルを静脈に通して左右の副腎静脈から採血し(選択的副腎静脈採血)その静脈から採血したアルドステロンの濃度が高いことを認めて初めて腫瘍が左右どちらの副腎にあるかを探りあて手術することができるわけです。両側に腫瘍がある場合や両側副腎過形成の患者さんでは、現在のところ、手術適応にはなりません。適切な薬剤を使用して治療をします。
最後に、原発性アルドステロン症はかつて思われていたように、決して稀な疾患ではありません。正しく高血圧を診断して原発性アルドステロン症であるなら、適切な治療法を選択して治療を受けるべきです。
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