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松波総合病院 山北宜由
アルドステロンは、レニン・アンギオテンシン(RA)系により刺激され古典的には副腎皮質から生成・分泌され、Na貯留と共に循環血漿量を増加させ血圧上昇と共にK排泄を促進する。しかし、近年の知見では各種臓器局所でのRA-アルドステロン系の産生・作用が注目され、RA系のみならずアルドステロンも単独で心筋線維化・リモデリング、血管障害・線維化、血管伸展性低下、血管内皮機能不全、腎障害などを通じて、動脈硬化性疾患の伸展に深く係わっていることが示されてきた1)。 原発性アルドステロン症患者での左室容積はクッシング症候群や褐色細胞腫の患者より大きく2)、Framingham Offspring Study(第6期)における正常血圧者を血清アルドステロン値によって4群に分類し経過観察すると、血清アルドステロン値の高い群ほど血圧が上昇しやすく、かつ高血圧の範疇に入る者が多いという結果が判明した3)。 心筋細胞の培養でもLad添加群では培養心筋細胞は肥大し、選択的鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(selective mineralocorticoid receptor blocker; SAB)であるエプレレノン添加によって肥大は抑制される4)。 RALE試験では鉱質コルチコイド受容体拮抗薬のスピロノラクトンを重症心不全患者に投与したところ、同薬によって対照の35%の死亡率低下がみられ5)、EPHESUSにおいては、エプレレノンも急性心筋梗塞後の左室機能異常者に投与すると、全死亡、心血管死、心血管異常による入院など、対照より有意に改善がみられ、心機能障害患者における機能保全作用が示されている6) 。 一方、多くの大規模臨床試験でRA系の抑制により、タンパク尿の改善や腎機能障害の伸展抑制が示されているが7) 、アンギオテンシン転換酵素阻害薬(ACE-I)やアンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)を継続投与すると、血清アルドステロンは当初抑制されても、やがて約半数で再度上昇する(アルドステロン・ブレークスルー現象)8)、従ってタンパク尿、腎機能障害伸展の抑制には、ACE-IやARB単独投与より、再上昇しているアルドステロン作用も更に抑制するのがより効果的であると臨床的に示されている(4E-Left Ventricular Hypertrophy Study)9)。 ただ、本邦および米国では、SABのもつK排泄抑制作用で高カリウム血症が生じるのを危惧して中等度以上の腎機能障害患者や尿タンパク陽性患者ではエプレレノンの使用は禁忌とされている10)。 本来、鉱質コルチコイド受容体はアルドステロンとコルチゾールに同等の親和性をもつ11)。古典的な意味で、本来アルドステロンが十分作用する、腎、汗腺、小腸などではコルチゾールは11β水酸化ステロイド脱水素酵素type 2(11HSD-2)によって鉱質コルチコイド受容体に結合しないコルチゾンに転換され、コルチゾールが鉱質コルチコイド受容体に結合できない状態になっている11)。 しかし、詳細な検討では心・血管においては、11HSD-2は殆ど存在しないが、鉱質コルチコイド受容体はある程度は存在している12, 13)。 従って、心・血管においてコルチゾールは鉱質コルチコイド受容体にかなり結合していると考えられるが、おそらく、11HSD-2の介する反応でco-substrateであるNADがNADHに変換されることにより生じる細胞内のNAD/NADH比の変化が反映される酸化還元状態(redox state)が鉱質コルチコイド受容体にステロイドが結合してからの作用進行に重要な影響をもっている可能性があるとされる。従って、障害を受けた心・血管細胞ではこの細胞内redox stateが変化していて、アルドステロンだけでなくコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体に結合しても心・血管系の障害が伸展していく可能性が唱えられている14, 15)。 Gunterら16)らは心不全患者を血清アルドステロン値、血清コルチゾール値の高低により患者を分類し、アルドステロンだけでなくコルチゾールが高値を示す群でも予後が悪く、コルチゾール、アルドステロン共に高値の群の予後が最も悪いことを示した。鉱質コルチコイド受容体拮抗薬の効果はアルドステロンの作用を抑制するというよりも鉱質コルチコイド受容体を介した種々の悪循環を断ち切るという意味で、心・血管系、腎機能保全に重要であるといえる。(以上は2007年11月、愛知県新城市医師会医学講演会での講演内容の要約である)。

文献

  1. Nagata K et al. Hypertension 2006; 47: 656-664.
  2. Tanabe A et al. Hypertens Res 1997; 20: 85-90.
  3. Vasan RS et al. N Engl J Med 2004; 351: 33-41.
  4. Yamamuro M et al. Endocrinology 2006; 147: 1314-1321.
  5. Pitt B et al. N Engl J Med 1999; 341: 709-717.
  6. Pitt B et al. N Engl J Med 2003; 348: 1309-1321.
  7. Agodoa LY et al. JAMA 2001; 285: 2719-2728.
  8. Staessen J et al. J Endocrinol 1981; 91: 457-465.
  9. Pitt B et al. Circulation 2003; 108: 1831-1838.
  10. Young WF Jr Williams Textbook of Endocrinology 11th Edition, Saunders Elsevier, Philadelphia, pp.529-530, 2008.
  11. 山北 他 Mebio 2003; 20: 64-69.
  12. Funder JW Nat Clin Pract Endocrinol Metab 2005; 1: 4-5.
  13. Gunder G et al. Circulation 2007; 115: 1754-1761.
  14. Funder JW Trend Endocrinol Metab 2004; 15: 139-142.
  15. Funder JW Hypertension 2006; 47:634-635.
  16. Gunder G et al. Circulation 2007; 115: 1754-1761.
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