耳鼻咽喉科部長 永井裕之
慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)とは、いわゆる蓄膿症のこと。かつて副鼻腔炎の手術は痛くて辛い手術という印象がありましたが、今は痛みや出血の少ない内視鏡手術が主流。術後の腫れもなく、治療成績も良好です。
そこで、永井裕之先生に、慢性副鼻腔炎の内視鏡手術について話を聞きました。
慢性副鼻腔炎ってどんな病気?
鼻の周囲には副鼻腔とよばれるたくさんの空洞があります。
この空洞内を覆う粘膜が炎症を起こすのが副鼻腔炎で、短期間に進行する急性副鼻腔炎と、長期にわたる慢性副鼻腔炎があります。副鼻腔炎が慢性化すると、鼻の中の粘膜がきのこ状に膨れあがって、鼻茸(はなたけ)というポリープになり、鼻腔をふさいで、鼻づまりの症状に拍車をかけます。
慢性副鼻腔炎の治療法は?
慢性副鼻腔炎の治療は、病気の程度や鼻茸の有無などに合わせて、適切な治療を選択します。軽度の場合は薬の内服(抗生物質や炎症をおさえる薬など)や、吸引で膿(うみ)を吸い取って鼻の中をきれいにするなどの治療を行います。このような治療法で症状が改善しない場合や、鼻茸ができていて薬の力では治らないという場合は、手術による治療を検討します。20~30年前は歯茎を切ってほっぺの骨をノミで削って鼻腔にたまった膿や粘膜を取り出すという手術が一般的で、手術後に顔面が腫れたりしびれたりと、辛い思い出を持った方が多くいらっしゃいます。しかし現在は内視鏡による手術が主流となっており、骨を大きく削ったり、粘膜を根こそぎ切り取ることはありません。
出血や痛みが少なく、患者さまにやさしい内視鏡手術。
内視鏡手術は、局所麻酔(もしくは全身麻酔)の後に鼻の穴から内視鏡を入れ、モニター画面を見ながら鼻腔内のポリープ(鼻茸)を一つひとつ切除し、副鼻腔と鼻腔の通路を広げて空気や分泌物の出入りを良くします。内視鏡手術の利点は、出血や痛みも少なく、術後の回復も早いこと。従来の手術のように術直後に顔が腫れたり、頬がしびれるなどの後遺症もありません。さらに最近は、マイクロデブリッターという、鼻茸や膿を吸引しながら細かく削り取る画期的な装置が開発され、従来の除去方法より安全確実な上に、手術時間も大幅に短縮されました。手術時間は両側で約1時間半。入院期間も、従来手術では3週間ほどだったのが、1週間ほどで退院できます。
患者さまに負担の少ない内視鏡下副鼻腔炎手術風景。マイクロデブリッターや内視鏡画像をより鮮明に映し出すハイビジョンカメラなど、最新の装置を導入することで、より安全で正確な手術ができるようになりました。
高速回転する刃で、鼻茸や病的な粘膜を吸引しながら削り取るマイクロデブリッター。
術後は薬物療法を継続して再発を防止。
副鼻腔炎の内視鏡手術では、手術をしたら治療が終わりではありません。手術後はマクロライド系の抗生物質を少量長期投与(普通の量の1/2を約3ヶ月間)して、残った病変をしっかりと治すことが必要です。根気よく治療を続けることで、慢性の蓄膿の粘膜が正常の粘膜に戻っていきます。なかなか良くならないからと自己判断で薬をやめてしまう人がいますが、医師の指示のもとで粘り強く治療することが完治につながります。