医療情報

松波総合病院 形成外科部長:北澤 健

頭痛と肩こりの原因について

仕事や学校に行かれない程ではないけれど慢性の頭痛・肩こりに悩まされている方、更にCTやMRIも撮ってもらったが「異常ありません」と言われた方、多いのではないでしょうか。そのような頭痛・肩こりの原因が「まぶた」にあります。 これは私が在籍する信州大学形成再建外科の松尾清教授の理論ですが、まぶたを擦る癖のある人(アトピー、逆さまつげなど)、コンタクトレンズをしている人などは、まぶたを上げる筋肉の端がゆるみやすく(腱膜性眼瞼下垂)、年齢が進むにつれ目が開きにくくなり、これを補うために額や首、肩の筋肉を無意識に収縮させるので、頭痛・肩こりがおきるというものです。
また、上記の要因がなくとも生来のまぶたの解剖学的構造上、経年変化によって腱膜性眼瞼下垂になりやすい人も多くいらっしゃいます。 少々詳しい話をしますと、本来まぶたを上げる筋肉は上眼瞼挙筋というごく薄い筋肉で、まぶたの縁の瞼板という組織の前面に付着していて、これが収縮するとまぶたが上がります。瞼板への付着部分を挙筋腱膜と呼びますが、ここが延びたり緩んだりしてくると(腱膜性眼瞼下垂)、まぶたを引き上げる力は挙筋腱膜の裏にあって上眼瞼挙筋瞼板をつなぐミュラー筋を介して伝えられるようになります(図1)。
ミュラー筋の近くにまぶたの開き具合を感知するセンサーがあり、上眼瞼挙筋の力の入れ具合を調節しています。なので私たちは意識しなくても常に同じ大きさで目を開けていられるのです。腱膜がゆるみ、このセンサーに強い力が加わると、上眼瞼挙筋だけでなく、通常は上を見る時、顎を上げる時ぐらいしか収縮しない前頭筋や肩や首周囲の筋肉にまで「力を入れろ」という命令を出してしまい、それらが常に収縮しているために頭痛・肩こりを引き起こします。

image01 キャプション:図1:瞼の構造(左)と腱膜性眼瞼下垂(右)ともに矢状断

頭痛、肩こり、目の奥の痛みのある方で、以下に挙げる症状があれば、その頭痛、肩こりは瞼に原因する可能性があります。
  • いつも眠そうな顔だと言われる。
  • 目を開けると額に皺がよる。
  • 瞼が重く感じる、たるんでいる。
  • 二重(ふたえ)の幅が以前より広がってきた。または、二重(ふたえ)の線がいくつもある。
  • 以前と比べて目が落ちくぼんできた。
  • 眉毛と目の間が離れている、または離れてきた。
  • 三白眼である
  • 左右で目の大きさが違う。
  • 車を運転していて信号を見上げるのがつらい。
  • 写真を撮るとき必ず「あごを引いて」と言われる。

手術について

 手術は、たるんだ分の瞼の皮膚を切除し、眼窩隔膜を切開して挙筋腱膜を瞼板前面に糸で縫合するという方法です。これによりゆるみがなくなり、上眼瞼挙筋および腱膜だけで瞼を引き上げることができ、センサーにかかっていた過剰な負荷がなくなって症状が改善するという訳です。(図2) ※このセンサーは上眼瞼挙筋自体にも存在するという報告もあります。

image02 図2:手術の方法

術前と術後の変化

  • 術後はまぶたが腫れますし、皮下出血で部分的に紫色に場合があるのが難点ですが、2週間程度でだいぶ落ち着いてきます。ただ、完全に腫れがなくなるのに2ヶ月くらいかかります。
  • 術後は二重まぶたになり、目元の印象が変わります。

学会発表

眼瞼下垂症に伴う頭痛・肩こりがまぶたの手術で改善することが徐々に知られるようになりましたが、「どの程度改善するか」といった効果を評価する報告はなかなか見当たりません。そこで私は当科で手術を受けた頭痛・肩こりを伴う眼瞼下垂症の患者さんが、術後それらの症状がどの程度軽減されたかを調査し、その結果をまとめ先日学会で発表しました。

対象

2004年4月~2007年12月に手術を受けた患者さんのうち、術前に頭痛もしくは肩こり(または両方)があり、術後6ヶ月以上定期的に外来通院された人48人

内訳

2頭痛あり30名 肩こりあり46名 両方あり28名 男性5名 女性43名 19~81歳 平均年齢43.11±16.08歳

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質問内容

『手術前の頭痛・肩こりの強さを10とすると現在はいくつですか?全く無ければ0、半減なら5、変わりなければ10です』

回答結果

この質問を術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月に行い、6ヶ月時の結果を集計したのが以下のグラフです。

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まず頭痛についてですが、頭痛のタイプはほとんどの方が緊張型頭痛でしたが、30人中18人(60%)の方が『0』(まったく無い)とお答えになり、これが最多の回答となりました。また、『5以下』にすべての人が含まれたことになります。

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次に肩こりですが、『0』(まったく無い)の回答が最多であることは頭痛と同じですが、『2~3くらい』との回答も多く、頭痛に比べるとやや広い分布となりました。『10』(ほとんど変わらなかった)という方が1人いました。

学会発表内容について

これはあくまでも私が執刀した患者さんを対象にしていますので、一般的にはどのような結果になるかは不明です。また、今回の調査は他施設との比較を意図したものではありません。

北澤 健 ほか
腱膜性眼瞼下垂症手術の頭痛・肩こりに対する治療効果の検討:Pain Relief Scoreを用いた評価
岐阜県医師会医学雑誌23巻(2010年)P.129-P.133

手術にあたってのご注意

  • 手術は局所麻酔で、所要時間は両目で1時間から1時間半です。
  • 手術は入院、日帰りどちらでも可能です。
  • 健康保険の適応となり、手術当日から手術翌日まで2日間の入院で約7万円ほどのご負担です。(3割負担の場合)
  • 術後も定期的に外来通院していただきます。
  • 手術の方法は異なりますが、先天性眼瞼下垂の治療も行っております。
詳しくは外来でお尋ねください。 ※平成20年6月より形成外科 北澤部長の診察は完全予約制とさせていただきます。初診の方は(紹介状をお持ちの方も含め)、予め電話にて予約をお願いいたします。『形成外科予約』とお伝えください。

電話番号

TEL:058-388-0111(代)

予約受付時間

月~木曜日 14:30~16:30 土曜日 8:30~11:30
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