形成外科部長 北澤 健
「たばこを吸いすぎると肺癌になる」という話はもはや常識として疑う人はいないでしょう。では「ハードコンタクトレンズを長年使っていると眼瞼下垂になる」という話はどうでしょうか?
実はこれもまぶたを扱う医師の間では常識となっており、ハードコンタクトレンズの装用と眼瞼下垂の関連を示唆する文献はいくつかあります。
たばこを吸わなくても肺癌になる人はいますし、ヘビースモーカーでも肺癌にならない人もいます。これと同様にハードコンタクトレンズを使っていなくても年とともにまぶたが下がる人もいますし、ハードコンタクトレンズを使っていても「目がパッチリ」で眼瞼下垂にならない人もいます。
肺癌の患者さん達とそうでない人達との間で、喫煙率に大きな差があれば(肺癌の患者さん達の喫煙率が高ければ)たばこは肺癌を引き起こす危険因子ということが言えます。それと同様に眼瞼下垂の患者さん達とそうでない人達との間でハードコンタクトレンズの使用率に差があれば、ハードコンタクトレンズは眼瞼下垂の原因になると言えるのですが、意外にもこれまでそういった調査はなされていませんでした。
そこで私(北澤)が調査をしました。
2009年4月~2012年3月の間に眼瞼下垂を主訴として形成外科を受診した、30~60歳(平均年齢48.1歳)の女性51人(眼瞼下垂群)と、同時期に勤務していた当院の職員で眼瞼下垂ではない同年代の女性(平均年齢47.3歳)38人(正常群)のハードコンタクトレンズの使用状況を比較しました。
結果
|
眼瞼下垂群 |
正常群 |
合計 |
CL歴あり |
46 |
12 |
58 |
CL歴なし |
5 |
26 |
31 |
合計 |
51 |
38 |
89 |
CL:コンタクトレンズ 単位:人
眼瞼下垂群51人中46人(90.2%)にハードコンタクトレンズの使用歴があったのに対し、正常群では38人中12人(31.6%)でした。
この結果をχ2検定という手法で分析しますと、オッズ比は19.9となり、すなわち、
ハードコンタクトレンズを使用している人はそうでない人に比べて眼瞼下垂になるリスクが約20倍高い
ということがわかりました。
ちなみに、喫煙者が肺癌になるリスクは非喫煙者の4~5倍という結果が出ていますから、「たばこと肺癌」よりも「ハードコンタクトレンズと眼瞼下垂」がいかに密接に結びついているかがわかると思います。
この研究結果につきましては以下の論文で発表いたしました。
ePlastyという、形成外科のサイトからどなたでもご覧になれます。
英語の得意な方はぜひご一読ください。
Takeshi Kitazawa
Hard contact lens wear and the risk of acquired blepharoptosis: a case-control study
ePlasty 13 e30 2013/6/19
ハードコンタクトレンズを使用しているとなぜまぶたが下がるのか?
コンタクトレンズを入れたり出したりするときにまぶたを強く引っ張ったり、強く目を閉じてレンズを押し出したりする動作が上眼瞼挙筋の腱膜を脆弱にするためではないかという説がありますが、そのような行為はせいぜい1日に1~2回ですので、私は疑問に思っています。
ハードコンタクトレンズを使用している人の眼瞼下垂の重症度が使用しているコンタクトレンズの厚さと関連があると報告もありまして、私はコンタクトレンズという異物を挿入した状態で一日に何千回も瞬きをすることで挙筋腱膜やミュラー筋が摩擦により薄く伸ばされたり、線維化して収縮力が失われてしまい、まぶたが上がりにくくなるのだと考えております。
ハードコンタクトレンズ装着後数週で生じたという急性の眼瞼下垂の場合はコンタクトレンズの使用をやめることによって治ることがありますがそのようなケースは稀です。基本的には延ばされたしまった挙筋腱膜を手術で固定することによって改善を図ります。
コンタクトレンズでは眼瞼下垂以外にも角膜の障害などの合併症も起こり得ますので、眼科の先生の指導に従って使用することが大事だと思います。しかし、メガネではどうしても視力を矯正しきれず、コンタクトレンズに頼らざるを得ないという方もいらっしゃるでしょうから、私はコンタクトレンズの装用時間を極力短くするようアドバイスしています。