内分泌臨床研究センター長・産婦人科 今井篤志
子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」の2種類があります。この2つのがんは、原因も、発症年齢も、治療方法もまったく異なります。以前は子宮頸がんが圧倒的に多かったのですが、子宮体がんが年々増え、今ではほぼ半数を占めています。どちらも早期に見つけて治療すれば、ほぼ完全に治すことができますが、発見が遅れれば命を落とす危険があります。
では、女性ががんで命を落とさないためには何が必要なのでしょうか。産婦人科の今井篤志先生に話を聞きました。
子宮頸がん
20~30歳代に急増している子宮頸がん
子宮頸がんは子宮の入口(頸部)にできるがんで、日本では1年間に15,000人の女性が発症し、毎年3,500人の女性が亡くなっています。初期には自覚症状がないために治療が遅れがちなこと、これから結婚や出産を迎える20~30歳代の若い女性の発症が急増していることから、別名「マザーキラー」と呼ばれ社会問題になっています。
原因はウイルス(HPV)
子宮頸がんの原因は、ヒト・パピローマウイルス(HPV)の感染です。HPVはごく一般的なウイルスで、性交渉をもつ男女の約50%が感染しています。ただ、HPVに感染しても必ず子宮頸がんになるわけではなく、その確率はその0.15%といわれ、残りの99.8%は自然消滅します。HPVは多くの型がありますが、子宮頸がんから多く見つかるタイプはHPV16型と18型で、近年の若年者の子宮頸がんのほとんどはタイプ16と18に起因すると言われています。
子宮頸がんウイルスの約60%は、ワクチンで予防できる
近年話題の子宮頸がんの予防ワクチンは、HPV16型と18型の感染を防ぐものです。裏返すと、ワクチンを接種すれば子宮頸がんの原因となるHPVの60%の感染は防げますが、40%は予防できないということになります。ですから、子宮頸がんを予防するためには、初交渉前にワクチンを接種することに加えて、定期的にがん検診を受けることが重要なのです。
子宮体がん
子宮体がんも年々増えている!
子宮体がんは子宮本体の内膜にできるがんで、40代後半から増加し、閉経後の50代~60代にピークを迎え、その後減少します。子宮体がんには、エストロゲン(女性ホルモン)で増殖するタイプIと、エストロゲンに関係なく発生するタイプIIの2種類があり、タイプIが約80%を占めています。
原因は女性ホルモンのバランスの崩れ
女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。エストロゲンは子宮内膜の増殖を促し、排卵が起こると黄体からプロゲステロンが分泌され、内膜は妊娠の準備をします。妊娠が成立しないと内膜は子宮から剥れて月経となります。反対に、閉経年齢に近い方や、不妊、肥満などの方はプロゲステロンが出なくなり、ホルモンバランスが崩れ、その結果、子宮内膜が増殖を続けてがんが発生しやすくなるのです。一方、エストロゲンとは関係なく、閉経してから出てくるタイプII型は、発見しにくく進行しやすい性質を持っています。
子宮がんで死なないためには、検診が最も有効です。
子宮頸がんは、早く見つければ、がんになる前に治すことができます。
子宮体がんも、初期のものほど治療後の結果がよいため、早期発見が大切です。そして早期発見・早期治療のためには、年1回の検診が何より大切です。また、子宮体がんの代表的な初期症状は不正出血です。もし不正出血があったら見逃さずに、直ちに婦人科を受診してください。
今井先生のおはなし
平均寿命の伸びと女性のライフサイクルの変化に伴い、乳がんや子宮がん、卵巣がんなど、女性特有のがんが急増し、その死亡数は交通事故の死亡数よりも多くなっています。女性のがんは早く見つけて適切な治療をすれば完治できるのに、年1回の検診を受けないために、がんが進行してから発見される患者さまが多いのが残念でなりません。ちなみに笠松地域では、この10年間、町民検診および人間ドッグを受診された方の中から子宮頸がんが一例も見つかっていません。
この数字からも、年1回の検診の大切さがわかっていただけると思います。婦人がん検診に卒業はありません。熟年の方も積極的に受けましょう。